我が心のバレンタイン:青春 八重桜物語
新しい愛犬、ハナちゃんの登場

 2005年3月8日の事である。
 私の耳に、驚きの情報が飛び込んできた。何とトロの飼い主だった親戚が、新しい犬を飼う事に決めたというのである。
 さすがに最初は信じる事が出来ず、知らせてきた母が、冗談を言っているのだろうと思った。しかし、もうペット屋に注文をして、飼う犬自体も決まっているという事で、あと1週間ほどで、実際に子犬がやってくるというとこまで、話は進んでいたのだ。
 「ホンマかいな・・・・・???」 私は正直、喜びよりも半信半疑だった。というのも、飼い主2人は、ともに80歳以上。しかも2人共大きな持病を抱えている。今から子犬を飼えば、その子犬が天寿を全うするまで飼い主が生きている可能性は、限りなく低いと見ざるを得なかった。飼い主亡き後、犬は一体どうなるというのか・・・・・?
 「うちが引き取ったらいいって話になってるのよ。それを見越して今度来る犬には、最初から週に1度は、うちで泊まる様にさせるんだって。うまくいくかどうか分からないけど。」
 こう、母は言ってきたのであるが、その表情からは、喜び半分・不安半分という気持ちが伝わってきた。
 「まあ、あれやな。飼い主の衝動買い≠チてやつや(笑)。」と私が言うと、母も「そう!それやと思うわ(笑)。」と返してきたものである。


 新しい犬は、茶色の柴のメスで、今年2月1日生まれだという。まさに私がペットロスによるうつ状態に陥り、もがき苦しんでいる最中(さなか)に生まれた犬だ。この巡り合わせが単なる偶然だとは思えなかったし、将来への不安は残るものの、嬉しい気持ちも沸いてきたのは、事実である。
 この後私は母とともに、新しい犬がいるペットショップに、早速足を運んだ。新しい犬と初めて出会うとなれば、やはりこの上無くワクワクする。トロに初めて会いに行く時の気持ちが、蘇ってきた。
 ペットショップの檻の中に、新しい犬はいた。ホントに愛くるしい、まだ生後1ヶ月の子犬だった。店員さんが取り出してくれて、抱っこをする事が出来たが、何ともフワフワして、温かかった。そして一生懸命私の手を噛もうとし、少々噛み癖がある犬なのかな?と思ったりもした。


 トロが死んでから85日。この間、信じられないくらい長い歳月が流れた様に感じるが、ようやく届いてきた春の息吹とともに、新しい潤いに巡り会えた様な気がした。寒さと寂しさの両方から一気に解き放たれ、ひと言、『生き返った』と思った。
 トロの事はもちろん忘れていない。そして七絵の事も。
 この先、何があろうとも、トロがいた有難みと、七絵がいる有難みだけは、絶対に忘れてはいけないと思ったし、新しい心の支え≠ノ出会ってなお、トロと七絵の印象が薄れる事は無かった。
 この5日後、再び母とペットショップに行って、新しい犬を抱っこしてきた私は、その帰り道、犬の名前を考えた。直ぐに浮かんできそうで、なかなか浮かんでこなかったが、結局、私が太郎だから犬の名前は花子にすれば?という話になり、そこから『ハナ』となった。愛犬『ハナちゃん』の誕生である。


 3月16日、いよいよハナちゃんが、かつてトロがいた親戚宅にやってきた。
 当日、私は仕事と仕事の合間に何とか時間を作り、ハナのところへ飛んで行った。
 ハナは、新調した檻の中に居た。そしてしきりに扉を引っかいて、「外に出してくれ!」と催促している。キャンキャン声も上げており、なかなかヤンチャな子だと思った。そう、「まるで誰か≠ンたいだ。」と・・・・・!!
 私はハナを抱き上げて檻の外へ出し、子犬にとっては大変広い部屋の中を歩かせた。早速すばしっこく歩き出し、誠に可愛らしい限りだったが、少し段のある所に立たすと、下へピョンと飛び降りる事が出来ず、少々怖がりな様にも思えた。
 「このあたりのヘッピリ腰≠ヘ、私に似たのかも知れない。」と思ったりもして・・・・・。


 それにしても、昨年のクリスマス前にトロが逝った時、僅か3ヶ月後に再び犬が来るという事を、一体誰が予想しただろうか?出口の見えないうつ状態が続いていた私にとって、ハナと出会った効果は計り知れない程大きかった。少々複雑な気持ちも混ざってはいたが、心に“ファ〜ッ”と、温かい風が入るのを感じた。
 いよいよ、ハナと過ごす時代の始まりである。この日以降、私の人生では、ハナがトロに代わる新しい心の拠り所になり、伴侶となった。そして、犬の散歩という日課も復活し、長年トロが駆け回っていた家の中を、ハナが駆け回る様になったのだった。


 一つ、私は思った。
 「トロと七絵は、夢の中でしか会えなかった。しかしハナと七絵は、もしかすると現実に会う事が、あるかも知れない・・・・・。」


まさか再び私のもとに愛犬が登場しようとは・・・・・。お花見よりも一足早く、『春到来』であった。まだペットショップに居た時のハナ。




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