我が心のバレンタイン:青春 八重桜物語
顔面蒼白のトラブル! だが、あれは
神か何かの計らいだったのか・・・・・?

 『しるし』の歌に感動し、涙してから1ヶ月、今年のクリスマスパーティーが行われた。今年は去年とは打って変わって素晴らしいパーティーとなり、満足に楽しむ事が出来た。だが、その去年に予想した通り、七絵はアルバイトが忙しいため、パーティーには来なかった。今年こそ、来たら最高だったというのに・・・・・。そして、実はオープニングの直後だったのだが、こんな一幕があった。
 ある参加者で、とってもリズム感があって踊りが上手なのだが、普段は通院も必要な身体(からだ)の女の子が、オカンを見付けるや、
 「ねえ、今日七絵ちゃんは?」と尋ねたのである。オカンは、
 「七絵ちゃんなぁ、今日ちょっと来られへんねん。ごめんなぁ。残念やったなぁ。」と謝っていた。そしたら女の子は、
 「あ〜そうなんだ。今日は七絵ちゃんがいなくて、残念だね。」と、まっすぐオカンの目を見て言った。
 このやり取りを横で聞いていた私は、どこか救われた様な気持ちになった。


 「七絵の事を覚えている参加者がいる。七絵と会う事を楽しみにしていた、そんな参加者がいてる・・・・・。」
 確かにここに七絵はいない。だけど、参加者の心の中に存在している事で、「七絵がこのパーティーとつながっている」と実感する事が出来た。『参加者にも思い出を与えていた』、これは何より嬉しい事で、それゆえ本人のいない事が、一層惜しまれるのだった。
 そんな『未練』はしかし、何とか断ち切らないといけない。そう思って頑張っている内にクリスマスは過ぎ、間もなく年も改まって、2007(平成19)年になった。


 今年、七絵はもう高校2年生になる。私自身が高校2年生の時の夏休みに、七絵は生まれたのだ。それを思えば、本当に長い歳月が流れたものだと、しみじみ感じる。私もそれだけ年を取ったわけだ。今年は、年齢比がピッタリ2:1になるのか・・・・・。
 そして七絵が2年生となった4月、恒例のお花見が行われた。今年はオカンは来た。でも七絵は来なかった。そりゃそうだろうな、もう高2だ。昨年のクリスマスパーティーの事もあり、私は最初から逢える事を期待していなかったので、その分、ガッカリもしなかった。


 ちょうど1年前、七絵が高校に入学した年のお花見。
 あの時は本当にショックだった。逢えるものと思っていて逢えなかったから、すっかり気が抜けてポカ〜ンとした気分になった。オカンの仕事の都合だから仕方が無いのだが、今思えばこれが後1年早くなくて、本当に良かったと思う。後1年早い・・・・・、そう、あの【人生最長の4ヶ月の末の】再会の時である。あの時、万が一にでも七絵が来れない様な事態になっていたら、どうなっていただろうか?考えただけでもゾッとする。そして、あの【永い4ヶ月】から1年が経った、七絵が高校に入学する前後の1ヶ月も、私は『時間が止まった様な』感覚に襲われていた。何というか、時代の節目を強烈に感じたのである。
 バレンタインの思い出をくれた中学生最後の姿から、新しい高校生の姿へ。そんな、七絵の中での移り変わり≠フ早さに私の方が付いていけず、タイムラグが生じ、『時間のエアポケット』にスポンとはまってしまったのだ。
 そのため、時間の流れ方が異常だった。自分一人、いつまでも時間が『止まったまま』。そして、漸くエアポケットから抜け出した時、今度は一瞬にして、何年分もの時間をワープした様な感覚に襲われたのだ。だから、一気に何歳も年を取った気分になり、改めてカクンと力が抜けたのである。時間というのは、時感≠ニ書いた方が正しいのではないか?と思ったほどである。


 さて、今年のお花見では七絵は来なかったが、七絵の弟が登場した。弟は私を見ると開口一番、「おう!ねやたろう!」と“フツーに”言ってきて、
 「ここの子どもはどっちも、初対面でもお構いなしに絶好調やな。」と、つくづく思った。そしてお花見の何週間か後にも、私は介護に行く途中の道で、偶然弟に会った。その場所というのは、オカンの家からさほど遠くなかった。
 「そう!丁度こんなふうに七絵に逢えれば、一番嬉しいんだよ!」と思う様な、そんなシチュエーションだったのであるが、それから数日後に、見事『ビンゴ!』七絵との再会を果たす事になる。


 実は、再会の切っ掛けは、仕事上のある『トラブル』だった。私は普段、名刺を作る仕事をしているが、そのために使うパソコンが、立ち上げた直後に突如、壊れてしまったのである。あまりにも突然の事に、一瞬何が起こったのか分からなかったぐらいだ。そして事の次第を飲み込むや否や、私はパニックに陥った。というのも、この時の注文は急ぎだった上、初めての方からときていたのだ。それだけに、いきなりの『信用裏切り』は許されなかった。しかし、システムの都合上、名刺はその壊れたパソコン1台でしか、作れないという状況にあった。
 「どうしよう・・・・・」 頭の中が真っ白になったが、上司からの助言によって急場は凌げる事となった。ただし結果として、普段勤務している事務所では名刺が作れなくなり、下の階にある、もう一つの事務所で作る事になったのだ。トラブルが起こったのは土曜日で、発送期限が月曜だったため、急いで作成に掛かったのだが、その日の内には間に合わず、翌日=日曜に休日出勤する事に相成った。


 これまでにも、日曜出勤をした事は何回もあった。そして私は職員だから当然鍵を持っているのだが、下の階の事務所では勤務しないため、鍵は持っていない。従って本来なら入れないはずであるが、この日は特別に開いていた。ホームヘルパー養成講座が行われていたのである。
 私は、ラッキーにも事務所に入れた事に感謝しながら、講座の邪魔にならないよう、こっそり仕事を始めた。やがて講座は休憩時間となり、受講生が席を立つ音が、背中越しに聞こえた。と、その時である。
 「あ!ねやろーやん!」


 「!?」 何だか聞いた事のある声で、突然名前を、しかも“ねやろー”という、あだ名で呼ばれた。
 使い勝手が分からない代替ソフト≠ニ格闘しながら、必死に名刺を作っていた私は、背後から不意を突かれて瞬間、手が止まり、
 「ん??」と言って振り向いた。


 「ああ!あれれえ!!」 何と、目の前にいたのは七絵だったのだ。実に面白おかしそうな顔をして、こっちを見ている。
 何とまあ!いきなり・・・・・。今まで以上に予期せぬ再会のしかたに超ビックリしたが、よく考えたら、私は職場の人から、七絵がこの講座を受けていると聞いた事があった。だから今日は、本来なら七絵がいる事を分かっていたはずなのだが、名刺の事で頭が一杯で、忘れていたのである。『せっかく七絵がいるというのに、その事を忘れていた!』、こんな“不覚”は、後にも先にもこの時一度きりだ。
 ところで、七絵はグルリと円状にたくさん席が並ぶ中の、最も私に近い席に座っていた。一方で私も、名刺作成のためにはシステム上、使用出来るパソコンは1つしか無くて、そのパソコンの前に座っていたのだった。


 「ねやろーやん。」
 もう一度七絵は言い、同時に携帯を操作し始めた。
 「ハハァ。さてはオカンに、『ねやろーに会った』とメールする気やな」と思って見ていたところ、いきなりカシャリ=I何と、写メールを撮られたのである。
 「アァ?こりゃ!お前写メ撮ってたんかい!勝手に写すな。」と、さすがに半分は素(す)で慌てながら言ったが、七絵は「へへッ!」と言いながらニヤニヤしていた。いかにも「してやったり」の表情だ。
 これこそ、まさにウルトラ中のウルトラびっくり≠ネ出来事であったが、内心では感激していた。というのも、先ずこういう形で急に逢えた事自体、驚きに値するのだが、写メまで撮られたという事は、それだけ七絵が私に会った記憶を、リアルな形で残そうとした事になるからだ。会って嬉しくもない人の写メを撮るわけがないから、この“写メ事件”は、七絵が私との再会を喜んでくれたという証になり、それが何よりの喜びだったのだ。


 その後、少しの間七絵と話が出来て、やがて休憩時間は終わった。そして私もようやく、明日中に名刺を発送出来る目処が立ってきたので、この後別の用事が控えていた事もあり、退散する事にした。


 「いや〜・・・・・、今日はハイライトだったなぁ。」
 次の目的地までの道中、私は、つい今しがたの予想外に改めて目を丸くしながら、内心すこぶるハイテンションになっていた。よもやあんなふうに逢えて、しかも私の顔が七絵の携帯に残ろうとは!私は、例え自分から「撮って」と頼んでも、決して好い顔はされないだろうぐらいに、思っていたのである。
 もうすっかり大人の“お姉ちゃん”になっており、顔付きも出会った頃とは変わってきているが、そのキャラクターにはまだまだ元の面影があり、それが私にとっては大いに励みになった。


 本当なら、せっかくの日曜日である今日は、午前中は愛犬ハナの散歩をした後、そのハナや飼い主とゆっくり過ごし、昼から出かける予定であった。それなのに前日の予期せぬトラブルのために、今朝から顔面蒼白の気分で、ハナの散歩もキャンセルして出勤するハメになったのだ。誠に不本意ではあったが、一方でもしもトラブルが無かったら、この日の七絵との再会は無かったのである。
 七絵に逢ったのは昨年5月、介護の利用者宅にオカンとやってきた時以来、丁度1年ぶりの事で、大変懐かしいものがあった。思えば丸1年ぶりというのは、これまでで最長間隔となる。


 今回のトラブルは、実は神か何かの計らいだったのではないのか?私は真剣にそう思った。大変有難い限りだが、それにしても時に神様はとんでもない『前触れ』を付けて、計らいをしてくれるものだ。




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