我が心のバレンタイン:青春 八重桜物語
失敗転じて福と成す

 一番果たしたかった事=七絵にお礼の気持ちを伝える≠ェ出来ず、非常に残念な結果に終わったお花見であるが、それでも、新しく参加した子どもと一緒に遊んだりして、終わってみれば楽しい時間を過ごす事が出来た。そして、実はこの翌5月になって、私は思わぬ場所で、ほんの少しだけではあるが、七絵との再会を果たしている。
 その場所とは、私が定期的に介護に入っている利用者のお宅である。いつもの様に私が介護をしていたところ、インターホンが鳴り、入ってきたのが何とオカンだったのである。どうしても立ち寄らなくてはならない用事があったそうだが、その時もう一人後ろから入ってきて、それが七絵だったのだ。一緒に連れてきていたのか・・・・・。
 最初は、若い子が入ってくるのが見えたから、「ん!誰や?」と思ったのである。まさかこんな所で七絵に会うとは思わないから。
 私は介護中だったので、会話らしい会話はほとんど出来なかったし、2人ともすぐに帰って行ったので、お花見の時に言いたかった事も言う暇が無かったが、その時七絵が見せた表情は、今までと全く変わらないものだった。外見は少しお姉さんになっていたが、雰囲気がそのままだった事に、深くホッとしたものであった。
 束の間、突然の再会を楽しんだ私。それにしても、もしこのまま七絵に逢わなくなった場合は、いつも介護で来るこの家が、七絵と逢った最後の場所になるのか・・・・・。一瞬、その様な想像も巡らせた。


 さて、同じ5月の半ば頃、私にとって趣味の面で楽しみな時期がやってきた。大相撲名古屋場所の前売り券販売が、開始されたのである。
 私は15歳の時からずっと相撲ファンで、3月の大阪場所に加え、おと年からは7月の名古屋場所も観戦に行く様になっていた。今年の大阪場所では初めて千秋楽観戦が実現し、しかも優勝は決定戦にまでもつれこんだので、最高の千秋楽を堪能する事が出来た。そして次は名古屋場所である。
 「今度も絶対に千秋楽に観戦するぞ」と、私は意気込んでいた。大阪に続く“千秋楽連覇”を狙っていた分けだが、千秋楽にはもう一つの楽しみがあって、それは優勝パレードである。しかも名古屋場所は、一年で一番日の長い季節に行われるため、パレードの時も外は明るく、非常に撮影をしやすいのだ。そして見物するスペースも、大阪より遥かに広い。
 「パレードでもベストショットを撮りたい」と期待を膨らませたのであるが、大きな失敗をしてしまった。前売り券を買うのが、予定より数日遅れたのである。ちょうど販売開始前後の数日、私はいろいろ用事でバタバタしていたり、休日出勤もしなくてはならなかったりして、気が付いたら販売開始日から、2日ほど過ぎていたのだ。
 「あ、いけネ!」と思い、すぐさま券を買おうとしたが・・・・・。
 「ガーン!!」千秋楽の分は既に完売されていた。やはり表彰式があったり、優勝決定戦も行われるかも知れない千秋楽は、売れ行きが早いのだ。それは分かっていたのに・・・・・。私は地団駄踏んで悔しがったが、後の祭り。仕方が無いから、まだ空席が残っていた10日目の券を代わりに購入した。
 「チッ!10日目かよ。でも自分の失敗のせいなんだから仕方が無い。また来年があるさ。」と、自分に言い聞かせた。まあ、後半戦の面白い時期ではある。前売り券は間もなく郵送されてきた。


 その晩・・・・・、私はやおら携帯を開いて、オカンにメールを送信していた。
 「本年の7月18日は、七絵の誕生日を記念しまして、大相撲名古屋場所の観戦に行く事を、決意いたしました。」


 ・・・・・、ハア?と思われた事だろう。
 実は、手元に届いた10日目の券に書かれた日付を見て、その当日が7月18日、つまり七絵の誕生日に当たると分かったのである。だから、本来欲しかった千秋楽の券を買い損ね、面白くない気分でいた私は、せめて実際の観戦日が、偶然七絵の誕生日と重なった事をネタにでもして、オカンに『ボケをかまそう』と思ったのだ。この時私が望んでいた事はただ一つ、
 「何でウチの娘の誕生日やったら名古屋場所やねん?全然関係無いがな!」というツッコミが返ってくる事である。そうやって、1回メールでオカンとボケ・ツッコミをして遊んで、後はもう気が済んだとしよう、と考えていたのだ。
 ところが、予想もしない展開が待っていた。
 メールの返信はすぐに来たのだが、オカンからではなく、七絵からだったのだ。しかも私のボケに対するツッコミは一切無くて、
 「誕生日のお祝いしてくれるの?ありがとう!でも、まだ早過ぎますやん(笑)」と書かれてあった。


 ・・・・・「!! ヘ?」
 思わず大きな声が出てしまうぐらい、私はビックリした。まさかこんな返信が来ようとは。
 去年、愛・地球博会場で誕生日プレゼントを買った事は、もちろん昨日の事のように憶えていた。だけど、もう『二度目は無い』と思っていたのだ。それが、私のヤケ酒ならぬヤケボケのようなメールが切っ掛けとなって、七絵の方から『誕生日のお祝い』と言ってきた。
 「これはスゴイぞぉ!」私は驚きと喜びを込めて思った。メールを読んですぐに、
 「おいコラ!誰がプレゼント買ってやると言うてん?」と、七絵にツッコミ返信≠したが、この時点でもちろん心の中では、プレゼントを買うと決めていた。


 それからというもの、私は相撲観戦よりも、寧ろ七絵の誕生日プレゼントを再び買う事が楽しみで、名古屋に行く日を心待ちにしていた。相撲の一場所のハイライトを観るキップは手に入れ損ねたが、逆にそのおかげで、七絵の一年のハイライトを祝うキップを手に入れたのだ。
 これ即ち『失敗転じて福と成す』。相撲を観戦出来るキップと、七絵を祝福出来るキップ、どちらがより貴いかは、考えるまでもなかった。


 ただ、ホワイトデーの時もそうだったが、どんな雰囲気の店で、どんな物を買うのか、具体的に決めるとなると随分迷った。私一人で買いに行くので、「店の雰囲気はどうでも良いだろう?」と思われるかも知れない。だが、やはり七絵のプレゼントのためとあっては、それなりにふさわしい、後から振り返って「また行ってみたい」と思える、そんな雰囲気の店を求めるのは当然と言えた。ホワイトデーの時も、時間が無かった中慌しく考えて、「ここなら若者向けだし今風だ」と、カルフール箕面を選んだのだ。


 さあ!今回のプレゼント。先ず、大阪と名古屋のどちらで買うのかについては、当日自分がいる名古屋に決めた。現地のお土産を兼ねたプレゼントという、去年と同じ形にしたのだ。
 そして次が、“経験的にも”最も迷う『品定め』である。せっかく名古屋で買うなら、大阪でも買える様な物は避けたい。しかし現地限定で、なおかつ女の子に贈るプレゼントにふさわしい物となると、これは難しい。去年の『愛・地球博』みたいな大イベントは、今年はやっていないし・・・・・。考え込むと頭が煮詰まってくるので、インターネットでもいろいろ検索してみる事にした。すると、名古屋駅にある土産物店のサイトが引っかかり、アクセスしてみると、紹介文の中にこう書いてあったのだ。
 「当店は、中部国際空港(セントレア)でも出店しております。」


 ・・・・・!!「これだ!」と思った。
 中部国際空港(セントレア)、あそこはなかなか、プレゼントを買うにはふさわしい場所である。私は昨年、『愛・地球博』に行った際に、『セントレア』も訪れたのであるが、印象は大変良く、ちょうど若者がデートコースに選びたくなる様な雰囲気も、兼ね備えている感じだった。
 「あの空港なら絶対、何かいい物を買えるぞ。」
 私は期待に胸を膨らませて“その時”が来るのを待ち、七絵の誕生日前日、つまり私の誕生日に名古屋入りし、そのままセントレアに行った。
 広々とした空港の中には、実にたくさんの店があり、立派なショッピングセンターになっている。ヨーロッパの街並みを模した一角や、日本の古い町並みを模した一角など、いろいろな表情があって楽しめるが、肝心の、七絵のプレゼントの品定めは、予想通りなかなか出来なかった。品物の種類も期待以上に豊富で、嬉しい誤算と言えば誤算であったが、3時間半をかけて、全部の店をつぶさに回るも決まらず、さすがに足が痛くなってきて、コンコースのベンチで休んだ。


 と・・・・・、発見!!
 コンコースの一角に『セントレアフレンズ』という、オープンスペースの店があって、そこに【なぞの旅人フー】という、セントレア空港のキャラクターが描かれたグッズが売られていたのである。先ほどからコンコースの中央に、ドデカイ人形が立っている事に気付いていたが、それが【なぞの旅人フー】であった。この空港には、イメージキャラクターが存在していたのだ。
 「これはいい。決まりだ!」と思った。イメージキャラクター入りの物というのは、現地に行かないと買えないから、十分に土産価値がある。『centrair』という空港の名前も入っているので、ますます良かった。私は数多くの商品の中から、枕としても使えそうな大きなぬいぐるみと、出かける時に使えそうな巾着袋を買った。さぁこれで一仕事完了だ!後は渡すだけ。大いに達成感が沸いた。


 一つの買い物の時間が3時間半というのは、人生で最長だった。因みにそれまでの最長記録は、今年のホワイトデーの時の3時間である。私は僅か4ヶ月で2回も、買い物の最長時間を更新したのだった。
 今回の買い物をしている間、私はある一つの事を率直に感じていた。それは、
 「何事も、自分が祝ってもらうのはとても嬉しい。でも、人を祝うのが、イコール自分にとってのお祝いになる事もある。」という事だ。


 この2日後、私は職場で無事、オカンにプレゼントを渡した。
 オカンも喜んでくれて、七絵からも何か言葉をもらえたらいいな、と思っていたところ、期待にたがわずメールがきた。
 「誕プレありがとうございます。このぬいぐるみ、めちゃカワユス!」
 いかにも現代っ子らしい、略語ありコギャル語(?)ありのメールだったが、喜びが伝わってきてとても嬉しかった。大きな充実感に包まれた。


 それにしても、2年連続で誕生日プレゼントを買う機会に恵まれたのは、本当に素晴らしかった。メールも再びもらえたので、なおさら良かった。
 そもそも私が七絵にプレゼントをしたのは、これでもう3回目となる。そして今回は2品買ったから、合計4品も、七絵のもとへ渡った事になるのだ。加えて、誕生日プレゼントを買った場所がいずれも愛知県となったのも面白い偶然で、愛知は想い出に残る土地となった。
 『物が相手の手元に残る』というのは大変貴い事で、励みにもなる。形ある物が残る事で、相手が自分を思い出す機会が増えると思うからだ。『物』が記憶を呼び覚まし、思い出を語り継ぐ・・・・・。
 これからも、私の渡したプレゼントが、末永く役に立ってくれます様に(祈)。


七絵の『誕プレ』を買ったお店、
『セントレアフレンズ』。
ヨーロッパの街並みをイメージした
ショッピングセンター。
こちらは古い日本の街並みをイメージした
ショッピングセンター。




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