我が心のバレンタイン:青春 八重桜物語
思いがけない再会、そして「合格おめでとう!!」

 2005年の仕事納めは、あの大失敗に終わったクリスマスパーティーのショックが尾を引いて、何とも重〜い気分の中、迎えるものとなった。改めて思い出すのは辛いものがあるが、それ故にしばらくは脳裏から消えなかった。
 『七絵の思い出を作り損ねた』。それが一番大きいのは否定のしようが無いが、主催者としてパーティー全体を総括しても、あれほど参加者の方々から不評を買ったとあっては、次回から集まってくれるかどうか、分からなかった。


 七絵については、先ほども書いた通り、今年のパーティーが良かった悪かったに関わらず、参加するのはこれが最後だと確信していた。というのも、女の子は、もちろん個人により違いはあるが、中学生から高校生にかけてが一番変わるからだ。七絵も高校生になれば、交友関係や行動範囲がグンと広がり、また、バイトも始めたりして忙しくなるというのは、あまりにも予想出来て当たり前の事だった。中学生はまだ半分子どもだが、高校生になったらもう大人である。だから、親の職場のパーティーに、親と一緒に行こうという気は最早無くなり、その代わり恋人も作って、せっかくのクリスマスには彼氏とよろしく、どこかへデートに出かけたりするだろう、と読んだのだ。


 私は、こんな不本意な“プレゼント”で終わっても、せめてお礼の気持ちぐらいは表そうと、『クリパに来てくれてありがとう!』と、ひと言メッセージを添えた年賀状を送った。そして2006(平成18)年の年が明けると、自宅から最寄りの神社に初詣に行き、『今年も1度でいいから、七絵に逢えますように。』と祈願したのだった。初詣の後、私は暫し神社の境内にたたずみながら、
 「次に七絵に逢えるのは、4月のお花見の時で間違いないだろう。しかしちょうど入学式の時期でもあるし、果たして来れるかどうか・・・・・。今年はクリスマスには来ないだろうから、七絵に逢えるのは、恐らく次のお花見が最後だ。」と思っていた。そして、
 「これからの4ヶ月は、去年の同時期とは丸っきり違う気分で過ごすだろう。ただ、万が一お花見で逢えないとしたら、そのあとはもう何ヶ月どころか、永久に逢えない事さえ覚悟しなけれはならない。」などと真顔で言い聞かせていたものだから、よもや1月のすぐ次の2月にいきなり再会出来るとは、思ってもいなかったのである。


 2月中旬のある日、いつもの様に出勤していた私は、オカンのデスクの横を通ったところで、学校の制服姿の女の子が座っているのが目に止まった。「おや?誰じゃ、こんな所に?」と思い、少し近付いて顔を確かめるなり、「あっ!!!」
 何と七絵だったのである。だけど何故平日に七絵がいきなり事務所に、しかも制服姿で登場しているのか・・・・・?不思議に思って訊いてみたところ、どうやらオーダーをしていた高校の制服をオカンと受け取りに行って、その帰りにオカンが事務所に寄らなくてはならなかったため、一緒に来たという事らしい。着ていた制服は、高校のものだったのだ。
 この話を聞いた事で、私は七絵の高校合格を知る結果となった。
 「あー、無事合格出来たんだ。これで受験からも解放された。良かったな〜、おめでとう!」
 私は心から祝福した。脳裏に17年前、自分が高校に合格した時の記憶が蘇ってきた。今、七絵は一番自由を満喫しているのではないだろうか?
 七絵はいつもの調子で私に話しかけてきて、「なぁ、何かお祝い買ってや。」と、私の服の袖を軽く引っ張ったりした。私は本当に何か買ってやりたいと思ったが、果たして合格祝いをする機会が訪れるのかどうか、疑問であった。それでもとにかく、こんな思いがけない形でサプライズの″ト会を果たせ、朗報にも接した上、直接祝福の言葉も掛ける事が出来たのだから、その意味では大満足であった。私への、何かのご褒美かと思うくらい、嬉しかった。


 しばらくして七絵は事務所を出て行き、もうそのまま帰るのだろうと思っていたのだが、20分かそのぐらい経った頃、突然オカンが私の前に現れて、
 「ちょっと悪いけど、今七絵がな、○○という店におるねん。アンタ迎えに行ったって。私もう仕事終わって、連れて帰るから。」と、ちっとも悪くなさそうに言ってきた。
 「あのなぁ、もう帰るんやったら、自分で迎えに行ってそのまま帰ったらええやろ?何でワシ、いつもこんな役回りやねん?」ワザとボヤいてみせるとオカンは、
 「もーええから、早く行きなさい!」
 やれやれ、やっぱりオカンはオカンや。「こう見えても一応わたくし、勤務中ですから」と、一人ブツブツ言いながらしかし、心の中ではもちろん喜色満面で、その店まで迎えに行った。そして、ショッピングに熱中していた七絵に、
 「オカンが呼んどる。もう戻るぞ。」と声を掛けたが、最初はこちらを見ようともしない。2回目に声を掛けた途端、急に私を横切ってダッシュの様に店を出たものだから、思わず面食らって、
 「お、おい!待てよ。」と追いかける格好になった。その後は2人並んで、ショッピングセンターの中をスタスタと歩いたが、途中でまた七絵は横の店に寄り道≠する。
 「コリャ!また後で見れるやろ?ていうか、もう高校受かって時間が自由やねんから、いつでも見に来れるがな。」と言いながら軽く腕を引っ張ると、ようやく動き出した。
 「何だかなぁ・・・・・」と私は思った。七絵は制服姿だし、私も職場のスタッフジャンパーを着ている。しかしもしこれがお互い私服だったならば、2人だけでショッピングセンターを歩いているというこの構図は、それこそデートの様にも見えるかも知れない。例え距離にしてほんの数十メートル、時間にしてほんの数十秒であったとしてもである。
 だが、それにつけても長身の七絵の早足な事よ・・・・・。


 事務所に戻ると、オカンが「ありがとう」と、ひとこと言ってきた。そして2人は帰宅。こうして、予想外の出来事に舞ったひと時は終わったのであるが、しばらくすると、七絵からメールが来た。
 「今日はありがとう。また遊んであげるわぁ!!!」
 ・・・・・。遊んで『あげる』か・・・・・。
 「だけどまあ、俺は基本的に誰からも(例えば犬からも?)そう思われるタイプだから、まぁえっか。」と納得した次第である。とにもかくにも、2月という、去年だったら『軽度うつ病』で苦しんでいたこの時期に、この様なハイライトに恵まれたというのは、誠に感慨深いものであった。


 あの、2ヶ月前のショックが、心なしか和らいだ様な気もする。
 人間というのは、何かを与え損ねたら、その後どこかで報われる様に、出来ているのかも知れない。




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