我が心のバレンタイン:青春 八重桜物語
一人暮らしがスタート、そして直後に知った新事実

 [四季のハイライト]というのがあったとする。
 クリスマスパーティーが冬のハイライト、お花見が春のハイライト、そして誕生日が夏のハイライトと来て、後は秋のハイライトがあれば完璧である。秋に何か来ないかな・・・・・?と期待したが、残念ながらそう都合よくは、願いは叶わない様だ。ただ、この年は私個人に関して、秋に大きなハイライトがあった。それは『一人暮らしの実現』である。25歳の冬に初めて不動産屋を訪れ、物件探しを体験して以来、7年越しの夢が、遂に実現した。


 一人暮らしをする事、それは常に頭の片隅にあった。最初に行動を起こした25歳の時は、ちょうど今の仕事を始めたその年だったのだが、仕事の内容というのが、自立生活をしている障害者の介護であったり、自立を目指す障害者のためのプログラム講座を手伝う事であった。
 「人の自立のサポートをしている自分自身が、自立していない。」
 これは私の中で、相当なギャップとなった。加えて同年代の職員が、お金が苦しいながらも何とか自立をし、一人暮らしをしているのを知って、大いに触発されたのであるが、いかんせん時期が悪過ぎた。この年の私は、半年以内に父と祖母を相次いで失っており、4人家族が2人に半減するという、『ダブル喪失』を体験していたのだ。そのため、ここで私が家を出ていったら、残った母は、1年以内に一気に一人ぼっちという事になってしまう。それは、招かれざる事態であった。それでも母は、最初は私の一人暮らしに賛成していたのだが、いざ物件が決まると一転、猛反対となり、『計画』は頓挫したのである。当時、私は経済的に、極端に安い物件しか選ぶ事が出来ず、それも反対の一因だったという。


 それからは、ずっと親元で暮らしてきたわけだが、年数が経つにつれて、2人だけの家族という環境にも慣れたし、私自身も就職を果たして、収入や身分が安定する様になった。そしたら、『今度こそ一人暮らし』となるはずだったのだが、ずっと実家に居たのには一つ訳があった。愛犬トロの存在である。近所の親戚宅で飼われていたトロの、散歩や世話をするのに、私が近くにいた方が、いざという時に何かと合理的だったのだ。しかし、そのトロが世を去った事で、実家に居る理由が無くなった。
 その後、ちょうどペットロスで、抗うつ剤を飲む事を余儀なくされていた頃、私の中に、
 「この危機を脱するためにも、いっそ思い切って生活環境を変えてみよう。」という思いが沸き始め、『一人暮らし熱』が再燃したのである。そして、「今度こそいざ実現」と思った次の瞬間、新しい愛犬ハナが登場したのだ。


 ハナが来ると分かった時、複雑な心境になったのは、実はこの事があったためだ。行動に移る寸前だった一人暮らしは、こうして、またも中断するに至ったのであるが、ハナが天寿を全うするまで待てば、私は40代後半まで実家で親元暮らしという事になる。それは決して悪いとは言わないが、さすがにちょっと問題なのではないか?と思った。そんな年になると、一人暮らしに踏み切る気力も無くなるかも知れないし、その時点では母ももう高齢になっているから、わざわざその母を一人にするのは、逆に親不孝という事にもなってしまう。今なら母もまだ高齢ではないし、充分元気だ。


 私はひとりっ子であるため、最後に母の面倒を見るのは、当然の事ながら私一人である。従って、最終的には実家で、母を支えながら生活する事になるのは今から分かっているわけで、それならば尚の事、まだ母も元気な内に一度家を出て、世帯自立を経験しておく必要は絶対にあると思ったのだ。
 2005年11月、私は母から多少の反対を受けながらも、今の家に転居し、一人暮らしをスタートさせた。三度目の正直であった。
 トロの死から1年以内に実現が成った一人暮らしであるが、家の場所だけは、当初の計画より変更している。元々は今後の通勤の事だけを考えて、職場から徒歩数分の場所に住むつもりでいた。しかしハナが来た事で、そちらにも通いやすい場所に住む事が必要となり、結果的には職場とハナの家のほぼ中間で、新生活をスタートさせるに至ったのである。そしてその場所は同時に、ある人の家と、もの凄く近所だった。K子姉さんである。


 実はK子姉さんは、私が一人暮らしになる直前、もう住む場所は決まっていた2005年10月末限りで、退職していた。私にとって、ある意味非常に有難い、会えば明るくなれて、元気をもらえる存在だったK子姉さん。去られるのはたまらなく寂しかった。
 せめて、次に七絵と逢える今年のクリスマスパーティーまでは、いてほしいと思っていた。私と七絵の絡みを見て楽しんでもらいたかったし、またネタにしてほしかったからである。
 最初にK子姉さんの退職の知らせを聞いた時、何やら不吉な予感がした。何て言うか、胸騒ぎがしたのである。
 「もう近く、こんな楽しい時代は、終わりを告げるのではないか?これを皮切りに、いずれオカンも退職し、七絵と会う機会も無くなって、完全に縁が切れる運命なのではないか?」と・・・・・。
 それだけに、職場から別れるのと入れ替わりに家は近所になるという、この出来過ぎた偶然に対して、少なからず救われた思いがした。同じ職場≠ニしてのK子姉さんと最後に交わした会話も、一人暮らしをするというお知らせと、新しい家の場所の説明が内容であった。


 『家が近くになって、果たして会える機会は増えるのか???』
 一人暮らし自体は順調に軌道に乗りつつも、このような疑問を感じていた私であるが、ぼちぼち年賀状を書くシーズンになった12月中旬、K子姉さんからメールが届いた。
 「パソコンで年賀状を作っていて、画像を載せるのに色々処理をしたいんだけど、やり方が分からない。ご飯をご馳走するから教えて。」
 「ワオ!K子姉さんの手作り料理か。こりゃ楽しみだ。」と思わず笑みが広がった私だが、パソコン上での画像処理なら自信もあったので、早速OKを出して行く事にした。


 K子姉さんの家は、確かに凄く近かった。「まあ、この様になったのも、何かの縁かも知れないな。」と思ったものである。
 ご飯もすごく美味しかった。一人暮らしになってからも、同じく一人暮らしとなった母の様子見を兼ねて、ある程度ひんぱんに実家に行き、食事もしていた。しかし、手料理が当たり前だった生活とは明らかに違っているわけで、人の作ってくれた食事というのが、しみじみ有難く感じられた。そして肝心の、パソコンでの画像処理も、無事リクエスト通りに行う事が出来た。
 「また何かあったら、いつでも力になりたい。」と、私は思った。「こういう事ぐらいしか自分には出来る事が無いし、別に食事もお礼も無くていい。そもそも、会って話が出来る事が何よりのお礼なのだから、また手伝いに来たい・・・・・。」


 さて、やる事が全部終わった後は、まだ時間があったので暫く喋っていたのだが、自然の成り行き(?)として、話がオカンや七絵の事になっていった。そしてK子姉さんは『ふと思い出した』様に、
 「あ!そうだ。あのな根箭さん、知ってる?」と言いながら、やおら立ち上がって、住宅地図を持ち出してきた。
 「???何でいきなりそんな物を?」と不思議がる私をよそに、K子姉さんは何故かニコニコしている。
 「ここからな、七絵ちゃんの家も結構近いねんで。もうここら辺や・・・・・、ああでも、ギリギリ地図には入ってない範囲やなぁ。残念。」


 「へえええ・・・・・!」私は丸っきり予想していなかった情報に驚きながらも、内心ではやはり喜んだ・・・・・というか、少しホッとしていた。
 考えてみれば、七絵の住んでいる場所は、ほんの最近まで全く知らなかった。オカンに訊くことも可能だったかも知れないが、やはり『家の場所を訊く』というのは大変勇気の要る事で、ずっと遠慮していたのである。
 私は、日頃七絵に偶然会う事が皆無だった事から、「七絵の家は結構遠い所にある」と、勝手に思い込んでいた。
 「敢えてどこに住んでいるかは訊かない。だが、日頃俺が行かない方面に違いない」と・・・・・。しかし、K子姉さんの家を訪ねる少し前、実は私は、その時点で職場にいた全職員の住所を、一覧にして印刷してもらっていたのである。一人暮らしになって住所が変更したという『お知らせ』を、年賀状で書いて出したかったからだ。当然その中にはオカンの住所も含まれており、それを見た時点で、「思ってたより大分近いじゃないか!」と驚いていた。


 今回、K子姉さんからの話を聞いて、七絵の家は、一覧で住所を見た際に見当を付けた場所よりも、さらに私の家寄りである事が分かった。これは考えてみれば、なかなかの【新事実】である。だってもしかしたら七絵の家は、実家からの方が近かったかも知れないのだし、元々住む予定だった場所からの方が、近かったかも知れないのだから。


 「これからはこの場所で暮らしていく。」と、心に決めて引っ越してきたその直後に、今回の【新事実】を知ったというこの偶然には、果たして意味があるのか?
 私がこの場所に住み始めた事で、何か流れ≠ェ変わるのか?
 よくよく考えてみれば、もしハナが来なかったら、私はこの場所に住む事は無かったわけで、そういう意味ではまたしても犬≠ェ切っ掛けで、新たな“縁”が始まっていくのかも知れない。
 時あたかも、七絵との次なる再会までの“カウントダウン”が始まった時期で、これもまたもの凄い偶然!私はますます、新しい流れの到来≠予感せずには、いられなくなったのだった。




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