我が心のバレンタイン:青春 八重桜物語
待ちわびた春、一人準備をした物とは・・・・・?

 新しい愛犬、ハナがやってきた事によって、私の心境は大きく変化した。
 心に活気が蘇り、それに伴って、うつ病も目に見えて改善されていった。4月に入ると、メンタルクリニックに通う事や抗うつ剤を飲む事は、もう必要では無くなった。ようやく復活を果たしたのである。そしてこの時期になると、もう一つの或る事が、心の躍動に大きく拍車を掛けていた。それは、『七絵との再会の日が近付いてきた』という事である。
 1月から3月までは、とにかく『永遠のトンネル』のごとき長さに感じ、何日経っても、七絵と次に逢える日が近付いているという実感が、持てなかった。まるで真空パックの中にいる様な心地で、一日一日が過ぎゆくのを確かめていたのであるが、4月になると、いよいよ【お花見まであと何日】という気持ちになり、時間の流れを肌で感じられる様になった。長過ぎたトンネルに、ようやく出口が見えてきたのである。
 そうと分かると、何やら急にテンションが上がり、何かをやっていないと気が済まないような気分になった。待ちわびた春≠フ到来。さあ、私は一体、何をやったのだろうか?


 まず、ある2つの買い物をした。その中身とは、バドミントンセットと白い運動靴である。特にバドミントンセットは、初めての購入であった。
 何故いきなりバドミントンなのか?実は去年のお花見の時、七絵が一番夢中になってやっていたのが、バドミントンだったのだ。誰彼構わず捕まえては、「一緒にやろうや!」と言っていたのを覚えていた。だから、【七絵=バドミントンが好き】というのが、私の中での印象となっており、今年も絶対やりたがるだろう、と見たわけだ。
 私は、高校時代に結構バドミントンに熱中していたのだが、それ以降はやった記憶が無い。従ってド下手である事は明白だったが、それでも是非、七絵とやりたかった。2人でプレーをして、【一緒に何かをやる】という時間を創る事で、七絵の中に、私の印象が増えるだろうと思ったからだ。もしそうなれば、私にとって宝物の思い出となる。
 自分から誘う事は、私の性格上無理だろうが(プレー自体が下手である事を差し引いても)、せめて『道具』だけでも揃えれば、チャンスにつながるのではないかと思った。私が自分でバドミントンのラケットを振っていたら、「やろうや!」と言われる確率が上がるのでは?と・・・・・。


 一方、白い運動靴は、これも七絵の前という事で、『快活で若々しいイメージを演出したい』という気持ちがあった。白色は芝生にもよく映えて明るい感じがするから、そんな運動靴を履く事で若さを表現し、『運動する気満々』という自分を、アピール出来るだろうと思ったのだ。
 運動靴は、お花見当日にまっさらな状態で履いて行きたかったから、それまでは、休日に少し“慣らし運転”をするだけに留めておいた。そしてとにかく祈っていた。
 「当日、絶対に晴れます様に」と・・・・・。


 さて、買い物以外に、もう一つやった事がある。それは、プライベート用の名刺を作る事だ。
 私は仕事で名刺を作る担当をしているので、自分が欲しい名刺は、職場で時間があればいつでも作れる状況にあった。そこを利用して(?!)、七絵に渡すことを意識したプライベート名刺を作ったのである。もちろん他の人たちにも、渡せる機会があれば渡すつもりで、何枚か作っておいた。
 名刺は、おもて面に自分の名前と、インターネット上のハンドルネーム、それに、当時すでに開設していたホームページの、名前とアドレスを載せた。そして裏面には、ハナの寝顔の写真と、亡きトロの最晩年の姿を写した写真を載せ、それぞれにコメントも添えた。ハナの写真の下には、ハナのセリフという形で「また遊ぼうネ」と書き、トロの写真の下には私の言葉で、「思い出の愛犬、トロ」と書いた。


 この様な名刺を、私は即行で作ったのであるが、そもそも名刺を作ったのには大きな訳があって、七絵が私のフルネームを知っているかどうか、定かではなかったのである。名字は、去年のクリスマスパーティーの時にも何回か聞いているし、覚えているだろう。だけど下の名前は・・・・・?
 いきなり口で自己紹介というのも、かえって照れくさくて出来ないし、それなら、「これ、あげるわ。持っとき。」とか言いながらさり気なく名刺を手渡す方が、やりやすいし自然だと考えたのだ。
 ホームページの事も紹介して、七絵が家で見てくれる事を夢見ていたが、これも口頭で名前やアドレスを言っただけでは、相手はなかなか覚えられないから、その点でも文字にして、名刺として手渡すというのは、効果的な手段だと思った。
 何より、自分の作った物が七絵の手元に残る≠ニいう事が、大変画期的だったのである。


 私は、名刺入れの一番外側に、完成した【プライベート名刺】を数枚入れた。それをしばしば眺めながら、当日うまくいくよう、天に祈り続けていた。そしていよいよ、【その日】は近付いてきた。果たしてどんな一日を送る事になるのか?ただひたすらに、心を渦巻く期待と不安。喜びと緊張。私のテンションは、否が応でもピークに達していったのだった。




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